『杉本文楽 木偶坊入情 曽根崎心中 付観音廻り』2011.8.15@神奈川芸術劇場


黒部市立図書館で近松の初板本が発見されたことを機に実現した、このたびの『曾根崎心中』 現行のは、先に歌舞伎の復活上演で大当たりしたのを受け、1955年新たに作詞作曲された同名の別作で、近松の原文ではないそうですね、知らなかった。
写真家の杉本博司が構成、演出、美術、映像を手がけ、豊竹嶋大夫、吉田簑助桐竹勘十郎とくれば、期待は高まるばかり〜
現代美術家が蘇らせた近松本、それも3日間限りの公演とあって、会場は華やいだ雰囲気。連日35℃越えの酷暑のせいだけではなく、観客の高揚感によって熱を帯びているかのようでした。


舞台美術がなにより素晴らしかった。一切の無駄を省いた黒い背景の装置は人形の衣裳と白い肌が冴える仕掛け。そこへ一枚付け加えられる布は、遊郭の花やいだ妖しさを連想させる赤い着物地、続いて、水辺を表現する藍染め。写真映像も盛り込まれ、いつも観る文楽とはまったく異なる演劇空間に幻惑されてしまう。このスタイリッシュさ、大胆さは、従来の文楽ファンにはいささか違和感もあろうかというほど。
でも、今まで観たことのない文楽が眼前で繰り広げられ、それを受け入れていくうちに、観る者は、文楽とはこういうものという固定観念をあっさりと越えさせられる。そして観終わった後、そこには新しい可能性が提示されているわけだから、まったくすごいことだ。やりたいこと、やろうとすることが明確でブレない人なのだなぁ。
スピーティーな運びで、最後まで一気に。時間が短く感じるほどあっという間の、でも、ものすごく濃密な時間でした。
芸術家の手によって、自分たちがこんな風に料理されるのを、古典芸能の大ベテランたちが楽しんでいるように見えて、それもよかった。
演出で、人形遣いが全員黒子の衣裳だったけれど、主遣いは顔を見せて欲しかったような気も。これは好みの問題。


ところで、この公演のことは、海外在住の友人が facebook 上にアップしてくれたリンクで知りました。朝起きて(時差があるから)公演2日目と知り、ちょうどフリーの休日だったので、開演1時間前に並んで当日券をゲット。無事に夜の公演へ滑り込むことができました。ソーシャルネットの時代ならでは、ですねー。ありがとう!


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