師の手紙
郵便受けの封筒にちらりと見えたのは筆書きの宛名。
Eメールにて済ませるご時世に珍しいと手に取れば、師からの手紙。ドキドキしながら封を開ける。
以前からずっと、書を習いたいと思っていたのだけれど、なかなか始めることができないでいた。誰にでも習いたいというわけでもなかったし、あるいは、心静かに書と向き合う準備が整っていなかったからかもしれない。
今の先生とは不思議なご縁で巡り会い、コワいもの知らずのほとんど押し掛け弟子入りをして、それからはもう夢中。
「筆の持ち方やら、いろは文字やら、細かいことを五月蝿く言ったら、すぐ嫌になるでしょう。うつくしいと感じる心があれば、誰にでも書けます。自由に、のびのびとやってごらんなさい」と、ヘボの初心者を上手におだててくださるので、毎日の練習が楽しくて仕方ない。
ところが、このところ家の雑事が重なり、どうにもやり繰りができなくなって1ヶ月だけ稽古を休ませてもらうことに。そこへ届いた手紙。「稽古に来られずとも、1行でも2行でも書きなさい。せっかく志を立てたのですから、前進なさいますよう」春の歌のお手本も同封されていた。
「女が稽古事を続けようと思ってもいろいろあるわね。わたくしも子育て中に書を始めて、お舅さんもお姑さんもお世話しながら、それでも暇を見つけては台所の隅でちょっと書いたりしていました。よく、落ち着いて時間をつくらなくちゃ書けないっていう人があるけれど、わたくしの時代は主婦がそんなこと言っていられなかったわ」
「気づいたら、書を始めてから50年が過ぎていました。なんとかやめずにいたから、こうしていま皆さんとお会いできるのです」と、いつもおっしゃる師の情熱に触れ、これはまさに書を通じて、道を教えていただいているのだと反省する。身を引き締しめて精進するべし。