皆既日食2009 in 烏鎮 全リポート!


ただいま! 上海から戻りました。
皆既日食の観測は、混雑が予想される上海市内を避け、南西120kmに位置する烏鎮(Wu-Zhen)へ。広大な農場を借り切って芝生の上でゆっくり観測しようというツアーに参加。現地入りした前日は気温38℃、身体にまとわりつく熱風はどよーんと重たく、まさに「ひと雨来そうな空模様...」でもここで「明日は雨かも」と言葉にすれば、ほんとうに雨を呼び込んでしまいそうで、食事の席でも移動の車中でも誰もそのことを口にする者はいない。これを逃せばもうしばらくはやってこない今世紀最長の皆既日食を待ち望むキモチは、それほど大きい。

そして翌朝。窓の外では稲妻が光り、空が白み始める頃には土砂降りに。それでも出発時刻の6:30a.m.ホテルのロビーは、皆既日食をその目で見ようと世界各地から訪れた人々でごった返していた。

移動する道中も断続的に雨は降り続く。観測場所は緑が延々と続く広大な農場(写真上)で、敷地は東京ディズニーランドがすっぽり入るほどだという。こんなときではなく、普通の観光だったら霧に煙った湖畔もそぞろ歩きを楽しめたはずなのに。今はなすすべもなく点在する東屋の軒下で雨宿り。

小高い丘にはスーツケースひとつ分もの撮影機材を用意した人々が、もしや天気の回復があるかもしれないと、雨に濡れながらスタンバイしている。わたしはここから数百メートル離れた物見やぐらの軒下に。こちらはコンデジを三脚へ据える程度の、あとは手ぶら組(←わたし)も含め、あっさりした装備の面々が集まっている。

9:22a.m.
雷と暴風雨が交互に続くなか、時は刻一刻と迫る。「もうダメかもしれない」という考えが頭をよぎり、心が折れそうになった瞬間、どこからともなくどよめきが起こる。「ああぁっ!晴れてきたっ!!」という声とともに皆が外へ駆け出し、一斉に空を見上げる。さっきまでの土砂降りがウソのように、太陽が顔を出し「欠けてる、欠けてる!」の声を合図に持参した黒いフィルムで確認すると、確かに太陽の上部、まるで三日月のように欠けている。そしていよいよ皆既がスタート。

9:36a.m.これは、手持ちのデジカメでサクッと撮影したもの。さすがにブレてますが。
結果は、第2接触(太陽が完全に隠れる頃)→皆既のコロナ→第3接触ダイヤモンドリングまで、はっきり観ることができました。ツアーでご一緒したベテランさんから「最初は太陽を観ることに気を奪われちゃって見逃しがちだけれど、辺りがさーっと暗くなる、風景と気温の劇的な変化を身体で感じるのが皆既日食の場に臨む本当の醍醐味」と教えられていたので、約6分という長い時間、空を見上げてコロナを観察したり、足下も見えないほどの深い闇に包まれた周囲の気配を感じたり、自然の神秘を全身で精一杯に受け止めた。
観測場所へ行きたくても行けなかった人、雨模様で観ることのできなかった人へは申し訳ないけれど、TVの映像で観るのと直接その場へ身を置いて眺めるのは、ぜんぜん違う!これほど違うとは想像もしていなかった。皆既日食という現象も、どこでキャッチできるかも、詳細に情報を得ることのできる現代だけれど、そんなことを知る術もなく偶然それに出会った古代の人々が、きっと感じたであろうと同じ驚きと共に、あの漆黒の太陽は、この身に焼き付き、決して忘れることはないだろう。
ツアーの面々は、皆既日食の旅4回目、6回目、そして9回目の参加という戦歴の、ツワモノ揃いだった。皆既日食を求めて世界中を巡る人々は「日食ハンター」と呼ばれ、彼らは自身を「日食病なんですよ」と笑う。日食を経験した人が、決まり文句のように「人生が変わった!」と口を揃えるのを、TVや記事で見かける度、正直言って「ふーん」と思うばかりだったのだけれど、今回初めて実際に皆既日食を観て、ひとつだけわかったことがある。この体験は言葉で表すことなんて到底できない。人は、何にハマるのか、一体何が魅力なのか、自分でも理由を突き止めることができないまま、ただ太陽の魔力にとり憑かれ、皆既日食という奇跡を追い求めてしまうのだ。