DVD『once ダブリンの街角で』

日曜の夜に観て翌日もまだ余韻が残ってる。
きっと誰にでもある、人との関わりの瞬間(でも簡単に言葉にしたり、その感情を取り出したりできない、とてもフラジャイルな経験)を切り取った素敵な作品。音楽を題材にした映画の良いところはサントラでまた楽しめること。もちろん即ダウンロードして聞きながらこのブログを書いてます。主演のグレン・ハンサードが歌うアイリッシュ・ロックの叙情が心に沁みる。
ジョン・カーニー監督は映像のキャリアをスタートする頃、グレンのバンド「ザ・フレイムス」のベーシストでもあって(後に映像作家へ転身)彼らは長年の友。インタヴューで「プロとして表現活動を始めたのはグレンに誘われたのがキッカケだった。この映画で彼に恩返しができたと思っている」と話していて、ふたりの創作活動の物語と映画のストーリーがある面では入れ子の構造になっているわけだ。
予算10万ユーロ(約1600万円)2台のハンディカメラだけを使い数週間で撮り終えたのは、それがこの作品に合うスタイルだと監督が判断したからだそうだが、つくり手の明確な意志も、即興的な演出でしか捉えられない繊細さも、同時に表現しきっている。才能を認められた監督が超大作に挑戦できるショービジネスのシステムは、成功への階段のひとつだが、表現したいものの特性に合わせてサイズや手法を自在に選ぶ(自由がある)という潮流も、映画がどんどん洗練されているという証左。これはヴィム・ベンダースが『ランド・オブ・プレンティ』で開いた道か。
地味な作品ながらじわじわと口コミで人気が広まり 2008年度アカデミー賞歌曲賞。グレンはどこかで観たことあると思ったら『コミットメンツ』('91)に出演してたね。これも音楽モノ青春群像の佳作。
Cost (Dig)

Cost (Dig)

「ザ・フレイムス」のアルバムにも2曲収録。エモーショナルなサントラに対しこちらはもう少しタイトなアレンジ。グレンは感情を爆発させる歌い方をしても決してナルシスちっくに陥らず、確実にズシンと届けてくる。